どんな言葉をかけますか? — 承認欲求を満たすには
あなたに小学生の子供がいると仮定します。夕食時に子供が「今日テストで100点だったんだ」とうれしそうに見せてくれたとします。さて、あなたはどのような言葉をかけますか?
大方の方は「やったね」「よかったね」「ワーすごい」・・・などなど、話が弾み夕食も進むでしょうね。皆さんの中に怒る人はいないと思います。
さて、それでは子供さんが「今日のテストは90点だったんだ」と塞ぎがちに見せてくれました。どうも、算数のテストで足し算と引き算を間違えてしまった、単純なミスでした。さて、あなたはどのような声をかけますか?
「もうちょっとだったのにね」
「何で間違えたの」
「間違ったところがわかってる」
「次は100点ね」
「だから見直しなさいっていつも言ってるでしょう」
「平均点は何点だったの?」
「次は同じようなミスをしないようにね」
「よくできたね」
「十分だよ」
皆さんはどのタイプでしょうか?
タイプAですか?それともタイプBですか?親としては「100点取って欲しい」という願望がありますので、期待を込めたタイプAの発言がが多いと思います。私たち日本人は、農耕民族的に「先生(目上)の人の話を聞くように」「友達と仲良く」「ケンカしてはいけない」「周りの人に迷惑をかけないように」などなど、集団でのバランスを重んじ、謙遜することが美徳のように育てられてきました。NHKで「おしん」という番組や、プロレスの力道山など象徴的です。(図-1参照)
農耕民族 | 昭和 | 平成 | 狩猟民族 |
---|---|---|---|
集団主義 (縦社会) |
個の尊重 | 個の競争 | 個人主義 (横社会) |
住所一定 (村社会) 親分 ⇔ 子分 (人格が大切) |
対話の 時代 心を聴くこと |
ディベートの 時代 議論に勝つこと |
住所不定 (都市社会) 自己責任 (実力が大切) |
終身雇用制 | 契約雇用制 | ||
社会化のための しつけ (我慢が大切) |
私って何! | 目立つって何! | 個の形成のための しつけ (何ができるか) |
集団が全て | 私が全て | 勝つが全て | 個々が全て |
図-1
「おしん」は、厳しいいじめや罵声などひたすら耐えるストーリーですし、昔懐かしいプロレスの力道山は、相手に反則技などで攻撃され続け、出血したりして、負け寸前まで耐えます。耐え抜いた後で、最後の力を振り絞り“空手チョップ”一撃で相手を倒します。見ている観客や街頭テレビの前では、感動が走り、熱狂していました。
多くの日本人は、
- テストは100点でなくてはいけない
- 目上の人に従うべき
- みんなと仲良くする
- でしゃばってはいけない
- ガマンが大切
などの、「良く思われたい。良く見せたい」という価値観が、じっくり時間をかけて形成されてきます。
この表れとして、中学校にあがった子供たちは、100点のテストは見せますが、自分に都合の悪いテストは見せませんし、学校からの連絡も持ってこなくなってきます。親から怒られることを避けるために体得した技ですね。
企業内でもいつも攻撃的な言葉を発している上司に「ここを間違えました」と報告する人がいなくなり、組織は機能を果たせなくなりコンプラアンスの問題に発展していくことがありますね。大方の部下は上司が怖くて、失敗した自分を見せたくなくて、良く思われたくて、口を閉じて目線を下げています。
親の小言は頭を下げていればそのうちになくなりますし、上司の怒りの言葉も感じないように自分の気持ちを抑え込んでいるように思います。これも一つの生き抜く技ですが・・・。
承認欲求を満たすと人は能動的に成長する
図-2
「第四段階」の「承認欲求」ですが、タイプAの言葉は、子供の承認欲求を満たす言葉でしょうか?
タイプBは承認欲求に近づいているようですが、点数で評価しています。
皆さんはどのように感じますか?
そのような「良く思われたい。良く見せたい」などの価値観を持った子供たちが、やがて大人になって企業に入ってきます。企業では、100点取らないとすべて“悪”と評価されます。90点では未完成品なのでお客さんは買ってはくれませんね。
第一段階 | 生理的欲求 | ⇒ 食べられる |
---|---|---|
第二段階 | 安全欲求 | ⇒ 空気や社会が安全で生活できる・・・ 中東の国々では・・・ |
第三段階 | 愛・所属欲求 | ⇒ 人はグループに入りたい |
第四段階 | 承認(自尊)欲求 | ⇒ グループで認められたい |
第五段階 | 自己実現欲求 | ⇒ 自分自身で課題を掲げて、 能動的に行動する・・・ |
部下の価値観は、
- テストは100点でなくてはいけない
- 目上の人に従う=良く思われたい
- みんなと仲良くする
- でしゃばってはいけない
- ガマンが大切
となっていますので、ひたすら上司の罵声に耐えながら、「ダメなのは自分なんだ」「自分は価値の無い人間なんだ」「消えてしまいたい」などの思いに駆られる人が少なくありません。ここで、自己主張できるような人は良いのですが、「おしん」状態になる人がいます。
さらにこの流れを増幅してしまう“目標管理制度”や“成果主義賃金”があります。“目標管理制度”は、まず個人の目標を、上司との話し合いで決定しますが、先ほどの「良く思われたい。良く見せたい」との気持ちがありますので、目標を高く設定してしまう場合があります。さらに“成果主義賃金”ですから、更に目標を高くする人が出てきます。そして、この目標は職場には公開されますので、やり遂げる必要があります。この目標に向かって各自は努力しますが、実現しない場合もあります。努力したのに達成できない時には「出来ない自分が悪い」「自分は100点取れなかったので価値が無い人間なんだ」などと勝手に自分自身を追い込んでしまう形となり、上司や周りの人から避けるようになり、落ち込んでいく可能性が高いと思われます。農耕民族的な日本の中で企業や社会は狩猟民族的環境に変ってきていますので、一人ひとりが自分のスタンスを持ち、ゆるぎない自分でいる必要が求められます。(図-1参照)
親の事例も上司の事例も、「子供や部下を信用していない」「過度な期待を持っている」「親や上司がこの価値観(良く思われたい。良く見せたい)を持っている」「100点取るべき」などに固執している環境にありそうですね。
このようなテストを見たときに、システムカウンセラーは点数に関係なく「XXXXXX」と発言します。発言の詳細は直接お会いしてご説明させていただきます。
上司はポジティブな発言を
また、上司の発言ですが間違ったことを責めるのではなく「現状では思うように成果が出なかったんだね。それじゃ・・・もっと成果を挙げるためにどうしたい?」とポジティブな言葉をかけてみてはいかがですか?
往々にして、職場の上下関係では、このような上司(「100点取るべき」と価値観を持っている)に、部下は自分に不利になる情報は一切報告せず、上司のご機嫌を取る様な行動や発言をしてきます。“ゴマすりがうまい人”が出てくるのも、うなずける状態となっています。上層部にいけば行くほど、「自分のつかんだこの役職は離さない」との想いが強くなりますので、この傾向が強くなります。社長は権限がありますので、「自分の都合(気に入った)で人事を発令」するようになり、お仲間経営になってしまい、社会の尺度と企業の尺度はズレ始め、コンプライアンスなどの問題に発展してきますし、社長は“裸の大様”になっていきます。成長力を持った一人の人間として「世の中の尺度に合わせると、本来こうすべき」という気持ちは一切押さえ込んで、「上司の都合に合わせる」「良く思われたい。良く見せたい」社員ばかりになってきます。
昨今の企業の不祥事などは、これら社会の制度からかけ離れていった経営の結果ともいえるわけです。そのため、企業は“コミュニケーションが大切”と連呼しますが、自己主張する社員は少なくなるばかりとなります。旧態依然とした農耕民族的(日本的体制、親分・子分)の関係は、なかなか払拭できないようです。
人間は成長願望を持っている「ミスは成長のチャンス」
人間は本来成長願望があり、良くなろうとしているわけで、過去に経験したことの無い現在の社会の中で“ミスは当たり前”“ミスは成長のチャンス”と思える切り替え(余裕)があるといいのですが、上司は忙しすぎ、目先の利益や、その上の上司からの罵声を避けることを優先してしまいます。
ダイコハラは、今までに、ある職場全員のシステムカウンセリングを、何度かしてきていますが、多くの技術者は、「自分の技術だけでは最先端の開発は出来ないので、他人からの意見を聞く必要がある」と意識はありますが、日常業務に追われてしまい、自分の殻を破って自ら行動する人は、少ないようです。「本来こうすべき」と思っていても、言い出したら自分がすべての責任を取らなくてはいけないし、相手が変なやつと感じるかもしれない・・・自分の目標に入っていない・・・など、自分自身に都合の良い言い訳を用意し、出来ない責任は自分ではない、とバリアをがっちりと作ります。バリアの中だけは安心なんです。自分の家族や、今後の会社人生を考えて、「声を上げない社員」「指示待ち社員」に徹してしまいます。
仲間を救えるのはあなたの言葉だけ
さらに、メンタル面で考えると、上司の言葉や態度で、部下のモチベーションは大きく左右します。さりげない上司の言葉を気にして、病気に落ち込んでしまったり、休職してしまうことも多々ありますが、上司はまったく気づいていないことが少なくありません。上司は部下への配慮が大切ですし、部下の表情や態度・服装・仕事の進捗状況など把握した上で、変化に早めに気づいて、適切な“声かけ”が必要となります。落ち込んでいる部下を救えるのは、“上司の暖かい声”かけです。そして、仲間の“暖かい言葉”が仲間を救えるのです。
■ T社の事例(2008年4月2日 日経新聞より)
ある工場の設備担当者(37歳の男性)は、新しい生産ラインの構築をしていますが、計画通りに進まず、連日の深夜残業が重なりました。毎晩深夜に帰る旦那さんを心配して、妻は毎日日記を書いて、帰宅時間や旦那さんの様子を克明に記録していました。ある日突然、旦那さんが布団にいないことに気づき、家の周りを探したところ、既に自殺していました。旦那さんが残した遺書には、「眠れない夜も増えるばかり、するべきことはわかっているが、身体が動きません」と書いてあったそうです。(監督署から労災認定されました)
あなたが、この社員の上司だったら・・・・・・。